2023年10月22日(日)第12回言語聴覚療法技術セミナー開催報告
「Articulation訓練時の視点と実際:嚥下訓練との相違点」
内容
発話時も嚥下時もほぼ同じ器官を用いて遂行されています.活動にあたって「運動すること」という点でも共通です.しかし,それぞれの運動は似ていて非なるものです.発話とりわけArticulationにおいては,口腔内圧はそれほど高くなく,運動速度に至る各器官の分離運動を基盤とした巧緻性高い運動が求められます.同時に,各器官での微細な協調運動や子音と母音との連続運動,VocalizationとArticulationとの協働した運動,舌尖等の微細運動の実行に向けた頭頸部の安定性が求められます.一方,嚥下時の口腔・咽頭・喉頭器官は,よりダイナミックな運動が特徴です.口腔への取り込み,咀嚼,食塊形成,咽頭への送り込み,咽頭期で発声発語器官の運動を実行します.Articulation時とは異なり,弱い気流との連動や微細運動よりは器官全体がより時間的に連動して大きな力動を発揮できるかが重要となります.
よく,「食べる練習をしているとArticulationが改善した」という報告がなされます.これは演者もよく経験することです.しかし,Articulationの改善は『以前に比べて』ということであって,『子音や母音の産生が,正確なArticulationによって正確な音の産生となった』ということすべてを包含している表現ばかりではないと思われます.したがって,Articulation改善に向けた訓練は嚥下訓練と切り離して行うことが重要であると思われます.とりわけ,正確なArticulationに向けた訓練は目的や目標を焦点化し,実行することが正確性や目標到達を担保する上で重要と思われます.
本セミナーでは,Articulationの改善という視点に立って,訓練時に焦点化する視点やその実際についてご紹介したいと思います.とりわけ,嚥下訓練を行っているだけでは難しい点や嚥下訓練とArticulation訓練とを区別する点などについて具体的に訓練手技などの実演を交えてご紹介したいと思います.
なお,ASHAでは『Speech Sound Disorders』の用語を用いて音声出力後の音声に眼を向けています.本セミナーでは音声出力に至る発声発語器官の運動に焦点を当てて,嚥下訓練でできることと難しいことを紹介します.今回は,正確な音声出力に向けた運動訓練という点に焦点化いることから『Articulation』という用語を用いています.
対象とする方の病態や目標を理解した,嚥下訓練とArticulation訓練の併用や区別は,言語聴覚士の専門性です.多くの方々のご参加をお待ちしています.
講師 柴本 勇 先生(聖隷クリストファー大学)
第12回技術セミナーをZoomによるオンライン形式で開催いたしました。今回も全国から約80名もの先生方にご参加いただき、ご質問もたくさんいただきました。ご参加いただきました皆様には心より感謝申し上げます。
今回のセミナーは「Articulation訓練時の視点と実際:嚥下訓練との相違点」というテーマで、柴本勇先生(聖隷クリストファー大学教授)にご講義いただきました。講義では、Articulation改善に向けた訓練は嚥下訓練と切り離して行うことが重要であるという点について解説いただきました。
臨床において「食べる練習をしているとArticulationが改善した」という経験を私たちもすることがありますが、構音にはそれぞれに必要な運動があり、正確なArticulationに向けた訓練は1つ1つの構音に焦点化し、実行することが必要であることを、実技を交え教えていただきました。
終了後のアンケートでは、「ついつい忘れがちな質的な評価、訓練について再考することができました」「1回のセッションのゴールをどこに置けばいいかわかった気がします」といった声をたくさんいただいています。録画映像は、会員特典として今年度末まで無料で何度でもご覧いただくことができます。参加できなかった方、復習したい方は会員専用ページからお申込みください。