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書籍紹介

  タイトル:表面筋電図
編 者 :バイオメカニズム学会
著 者 :木塚朝博,増田 正,木竜 徹,佐渡山亜兵
出 版 社:東京電機大学出版局(2006年3月発刊)
サ イ ズ:A5判
ページ数:167ページ
定 価 :本体価格 2,500円+税

 表面筋電図について記されている教科書を紹介頂けないでしょうか。このような質問を受けることがあります。言語聴覚療法を実践する上で、神経筋疾患の方への評価訓練など筋活動や運動を勉強されたい方がそのような質問をされる傾向にあると思います。また、近年では顔面神経麻痺や摂食嚥下リハビリテーションなど、表面筋電計を用いる訓練が紹介されることもあって、このようなニーズとなっているだろうと想像しています。言語聴覚士養成施設でのカリキュラムでは、生理学等で筋収縮のメカニズムやそれに至る神経伝導や伝達、運動単位等の学習を行っています。しかし、他職種の養成のように多くの時間をかけて、また実験等を行いながら理解が深められているかはよくわかりません。筋収縮等の知識に自信がありますと胸を張って言える方はどれほどおられるでしょう。

 そのような背景の言語聴覚士が、基礎から応用まで理解し自身の臨床で活用できるというニーズを伺った時には本書を紹介することが多いです。

 本書は、7章からなっています。「表面筋電図とは」、「計測とその準備」、「処理と解析」、「応用の事例」、「適用とその限界」、「開発の動向」、「役立つ情報」と初学者でも筋収縮のメカニズムやその際に発生する膜電流、実際に計測する方法やその設定など非常に役立つ内容がわかりやすく記載されています。著者は工学系や体育系の研究者の先生方ですが、工学系の教科書に多い計算式などは、本書では多く記載されていません。実際に表面筋電図を計測しその分析をどのようにするか、応用するにはどのように実施するかという視点で記してくださっています。それもとても平易に解説を記してくださっています。まさしく、言語聴覚士が「いかに臨床で表面筋電図を活用するか?」という時に、基礎知識と具体的な実践方法に関する解説と示唆を与えてくれる教科書です。表面筋電図に興味を持たれたら、まず手によって読まれると表面筋電の基本と応用が理解できると思います。

  タイトル:「Speech Motor Control in Normal and Disordered Speech: Future Developments in Theory and Methodology」
著 者 :Pascal van Lieshout, Ben Maassen, Hayo Terband 編
出 版 社:ASHA Press(2016年発刊)
サ イ ズ:A4判
ページ数:320ページ
定 価 :本体$84+税(ASHA会員) 本体$104+税(ASHA非会員)

 専門職者にとって、都度様々な情報をアップデートしていくことがよりレベルの高い臨床活動へとつながります。American Speech Language Hearing Association (ASHA) は常に会員の臨床力向上に向けた活動をしています。本書も、そのような思想の中から生まれてきたものであるといえます。

 本書のタイトルは、「Speech Motor Control in Normal and Disordered Speech: Future Developments in Theory and Methodology」です。私個人的に考える和訳は、「正常発話と異常発話時の発話運動制御:理論と方法論の発展」というところでしょうか。

 発話運動の可視化は、手段やテクノロジーの発展と共に変化してきました。シネX線撮影、MRI撮像、パラトグラム、エレクトロパラトグラム (EPG)、超音波など、これまで多くの機器やテクノロジーを活用して、発話運動の可視化に挑戦してきました。特に発話中の舌を含む口腔運動について、口腔内はブラックボックスでなかなか完全なる解明ができているとは言えません。加えて、運動には制御系が必須です。正常発話時の運動制御、異常発話となっている時の運動制御はそれぞれ異なっているに違いありません。この点は、一般に想像ができます。では、具体的に「どこの何がどのようにどのような制御」となっているのでしょう。その点に果敢に挑戦されている執筆者たちの努力と結晶が詰まった書と言えます。

 本書は、5つのテーマ構成で執筆されています。1)知覚と活動、2)発話の発達、3)発話障害、4)発話モデル、5)神経制御、です。この5つのテーマに対して、発話運動システム、発話産生に対する聴覚・認知・運動の連動性、発話と言語発達との関連やその障害モデル、大脳基底核・運動制御・認知の関係、運動性発話障害、吃音の症状・理論・波及、発語失行、発話障害における音韻と音声、発話の誤りに関する研究、発話改善に向けたブレインマシンインターフェース、神経制御視点での構音コントロール測定に向けた新テクノロジー などが各章で執筆されています。

 運動には、必ず運動制御系が関与しています。特に大変緻密な運動である発話は、わずかな運動制御の誤りが発話障害に直結します。逆に発話障害のリハビリテーションには、発話運動コントロールからアプローチする方法が考えられます。発話障害を運動学的視点から客観的に捉え、リハビリテーションを行うという考えは、わが国の言語聴覚療法においても取り入れられています。更に深めるには大切な情報を与えてくれる書です。とりわけ、各執筆者の研究を基盤に執筆されているため、読み手が客観的に判断しながら読み進めることができます。ASHA推薦の書です。十分に読み応えがあります。

  タイトル:当事者に聞く 自立生活 という暮らしのかたち
著 者 :河本のぞみ
出 版 社:三輪書店(2020年3月発刊)
サ イ ズ:A5判
ページ数:320ページ
定 価 :本体価格 3,000円+税

 「リハビリテーション」が目指す本質的な意味とは何か。本書では、訪問看護ステーションに所属する作業療法士が『自立生活』という切り口でこのことについて記されています。 執筆に何年もの月日をかけ、9名の自立生活をされている方にインタビューを重ね、実際の生活を検証し、自立生活の意味を紹介されています。186ページにも及ぶ自立生活の紹介部分には、個々の信念や生きることの神髄が確固たるものとして存在しています。 「できないまま暮らす暮らしのありようがあること」、「できない部分は介助してもらう自立生活のかたち」の記載には、リハビリテーション専門職者のパラダイムがシフトする可能性すら感じます。 また、障害を抱えておられる方々の自立生活に関する歴史的事象や社会と人の価値観の変化、そこで働く方々に関するインタビューや考察は、市民にとどまらず専門職に対するメッセージと受け取ることができます。 加えて、リハビリテーションやリハビリテーション専門職とは何を目指して何をするものかを考えさせられます。本書に協力されている9名の当事者の方々の自立生活は、ある意味現代のリハビリテーションに手本を示し可能性を示してくださっているのかもしれません。 リハビリテーションとは、健常者が活躍する社会に障害を抱えた方をフィットさせる活動なのでしょうか。それとも、あらゆる個別性を受け入れ皆がそれぞれの立場で活躍することを目指していく活動なのでしょうか。答えはそう簡単に見出せることではないかもしれません。 しかし、本書のような書籍の存在によって、その議論が巻き起こること、これが大切なのだろうと思います。本書で実名を記し生活のありようを社会につまびらかにしてくださった9名こそが先駆者であり、社会学者に思えてなりません。

 現代は、法律の整備が進み様々なリハビリテーションが行われています。そういう時代であるからこそ、私たちリハビリテーション従事者は、保険点数に心を囚われることなく、活動の目的・目標・専門職としてのアイデンティティを考えることが大切です。 本書を読み進めると、その原点に立ち返る重要性が自ずと再認識され、信念となることは間違いないでしょう。そして同時に、市民や専門職が今後どのような社会を求め形成していくのか楽しみになることでしょう。

 一方、コミュニケーション障害を抱える方の『自立生活』はあり得るのでしょうか。作業療法士の方が作業療法士の目線でこれだけのことを考え、検証されたことは、作業療法が歴史の中で培ってこられたアイデンティーにほかならないと思われます。 言語聴覚療法分野でも、コミュニケーション障害者と社会の在り方、そしてその中での生き様を考えていきたいと改めて強く感じさせてくれます。本書の最後には、著者が「『自立生活』、それは簡単なことではないが、可能なのだ。」と記しています。 この言葉が、皆の背中を押してくれる気がします。言語聴覚士としてもぜひ読んでいただきたいお勧めの一冊です。

 なお、本書籍紹介文には本書文中に使われている用語である「障害」と表現しました。

  タイトル:再び話せなくなるまえに
著 者 :秋津じゅん
出 版 社:星和書店(2019年10月発刊)
定 価 :本体価格 1,600円+税
サ イ ズ:四六判
ページ数:236ページ

 神経学と小児学を基盤とする小児神経科専門医が2度の脳梗塞によって失語症となる.
1度目は超皮質性感覚失語症,2度目は伝導失語症と診断されて,言語聴覚士から訓練を受け社会復帰を果たす. その経過を患者という立場と神経学者の立場から克明に分析し,失語症と立ち向かう姿が後方視的に描かれている. 話せない・書けない この2つの症状が小児神経科医にどれほど重くのしかかるのかを言語聴覚士として理解できる.

 また,訓練を担当していた言語聴覚士の訓練内容を受け手である患者が分析するという従来の闘病記からは離れた書となっている. 私たち言語聴覚士も本書を読み,自身の訓練プログラムに立ち返り,確実に効果が上がる訓練法の立案や患者の必死な姿を学ぶことができる. 著者のまえがきには,筆者が何を失い何を求めたのか,失われたものはどのように再獲得されて,取り戻せなかったのは何か.を知って欲しいと記されている. 「そうすることによって,あなたは,『自分は何も持っていない』と誤解している自身の知られざる能力を知ることになるだろう」と人としての本質的な能力のすばらしさを気づかせてくれる.

 これこそ私たち言語聴覚士が世に示すことができることであろうと心から共感する. 患者さんの将来を背負う,言語聴覚士必読の一書であることに間違いない


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